スーツケース

カラカラカラ…
フランクフルトに着いて、勝は二人分の荷物の入ったスーツケースを引いて歩く。
「どうしたんですか?マサルさん。」
何か神妙な面持ちの勝にリーゼが声を掛ける。
「…そう言えば、スーツケースにマリオネット以外の物を入れて使うの初めてだなって思って。」
それを聞いてリーゼは微笑む。
「私はこんな大きなスーツケースを使うのが初めてですヨ。」
そう言って彼女はスーツケースを持つ勝の手に自分の手を添えた。


勝の握るスーツケースの持ち手が、しっとりと湿っている事にリーゼが気付く。
「マサルさん。手のひらにすごく汗をかいてません?」
「だって………緊張して。」
リーゼの言葉に勝が振り返って困ったような顔をする。
これから会う人の事を思うと、さしもの彼もいつもの調子とはいかないようだ。
「そんな、リラックスして下さい!私のお母さんは怖い人じゃないですよ?」
「それはそうだと思うけど。正直言って今、生まれて初めて舞台に引っぱり上げられた時くらい緊張してる。」
そう言って小さくため息をつき、胸に手を当て目を閉じた勝に、リーゼが吹き出した。
「それくらいなら大丈夫デスネ。はじめてえんとつ掃除の格好をしたあの時も、最後にちゃあんと私にお花を渡してくれたもの。」
彼女は勝の顔を覗き込んでウフフと笑う。
「……マサルさんは本番に強いから大丈夫。お母さんに会って話せば緊張も解けますよ。」
「そうかな。」
「もちろん!お母さんもすぐ、マサルさんの事を気に入ると思うわ。」
勝の不安そうな表情もリーゼの幸せそうな笑顔の前で溶けてゆく。
それから二人は肩を並べて彼女の母親が住む街に向かった。
美しい石畳の道を、二人で仲良く大きなスーツケースを押しながら。


2007.8.16 - 2009.1.22

これから二人はリーゼのお母さんの所にまいります(笑)
あー私もドイツ行ってバイツェン飲みたい!
タイトルはcool driveの「スーツケース」より。
※日記で自分の書いた物を振り返るのが面倒になってきたので、少々リライトもしつつこっちに移しました。2009.1.22