空に星が綺麗

明るいテントの外で、明るい色の髪をした背の高い男が道具を片づけている。
彼は阿紫花平馬。仲町サーカスの団員だ。
近くの歩道に人影が見える。公演日ならともかく、夜になると普段は人気のない場所だった。
平馬は人影を警戒する。
「よぉ!へーまぁ。久しぶり。」
現れたのは無期限休職中のサーカスの団員、才賀勝だった。
「なんだよ、お前か。…ってマサル、日本に帰って来てたのかよ。まったく、いつも突然なんだから…
 ん?そーか、リーゼの様子がおかしかったのお前のせいか。変だと思ったよ。」
平馬のぼやきにもめげず、にやにやしながら勝が告げる。
「昨日わかったんだけどサ。僕も今回の血液検査でやっと合格したよ。」
「何ぃっ?本当か?…良かったなァ、マサル。」
その知らせを聞いたとたん、平馬もうれしそうな顔をする。

検査とは、血中のアクア・ウィタエ濃度を調べるもの。
「しろがね」の血を飲んだ二人は、定期的にフウによる血液検査を受けていた。
平馬は飲んだ量が少なく、すぐにその影響が少なくなっていったが、
勝の場合はアクア・ウィタエの摂取量が多く、安全値になるまで時間がかかっていた。
すなわち「不死者(しろがね)」になるかならないかが未知数だったのだ。

「うん、ホントに良かったよ…。それにしても長かったー。」
言って勝は気持ちよさそうに伸びをした。
「これで正式に人間の仲間入りさ。」
不敵な顔で平馬に笑いかける。
「よく言うぜぇ、このモンスターが。」
平馬もニヤリとして言い返す。
「しっかし、あれからもう8年か。長いようで短いもんだな。
 小学生だった俺たちが、もう酒も飲めちまうんだもんな。」
「まぁね。でも待ってる方に8年は長いよ。」
勝が夜空を見上げて言った。


「アクア・ウィタエの事は気にするなって、俺は前に言ったよな。」
真顔になって平馬が言う。
「そんな訳にいかないよ。同じ時を歩けないのはつらい事さ。」
勝も真面目に平馬に返す。
「同じ時を歩けないって。お前…そんな理由で『あの人』をあきらめた訳じゃないだろう?」
「平馬…。何の事だよ、それ。」
思いがけない平馬の言葉に勝は動揺した。
「ガキん頃さ、お前しろがねさんのこと好きだったんだろ?
 見てりゃわかるさ。きっとナルミさんも知ってたぜ。」
自分が幼い頃から誰にも話さず胸にそっと隠しておいた筈の秘密を、平馬はこともなげに言う。
「ナルミ兄ちゃんも…?」
勝は動揺を隠せない。
「お前さぁ、あの頃の自分がどんな顔してたか知らねぇだろ。あの二人を見る時の顔さ。
 なんつーか、見てらんねぇ顔してたのヨ。
 さすがにナルミさんも男だからな。わかってたと思うぞ。ま、他の連中が気付いてたかは知んねぇけど。」
勝の様子を無視して平馬は言った。
「知ってたのに何で、僕に言わなかったんだよ。」
憮然として勝が言う。
「俺はあの頃、リーゼが好きだったからな。
 リーゼの好きな男の事が気になったんだよ。
 だからお前を見てたんだ。」
それは勝の知らない平馬だった。
「平馬…?」
「おぅ、ガキん時の事だからな。気にすんな。
 自分の好きなヤツが幸せならそれでいいじゃん。
 お前も、そうだったんだろ?」
そう言いながら、平馬は勝より頭一つ分高い位置から頭を殴る。結構容赦ない。
「いてっ、何すんだよ!」
「おめーの頭は殴りやすいんだよ、低い位置にあるからな。

 …リーゼにはちゃんと言ったのか。」
「ああ。」
「ならいい。」
二人は黙って、しばらくテントの明かりを見ていた。


「マサル…リーゼはさ、お前がしろがねになっても
 絶対気になんかしなかったぜ。見てりゃわかんだろがよ。」
そっぽを向いたまま平馬が言う。
「あぁ。」
平馬を見ないまま勝も答える。そんな二人の間に夜風が吹いた。
どちらからともなく向かい合う。
「で、リーゼに『お前は俺の女になる』って言ったのか?」
ニヤニヤしながら平馬が言った。
それは仲町サーカス内では伝説の、鳴海がしろがねを落とした言葉。
「ば、ばかっ、そんな事言わないよっ。」
真っ赤になって反論する勝を横目に、突然笑い出しながら平馬が言う。
「くくく…。マサル、リーゼがでかくなくて良かったな。くっ、ぷぷ…」
何かのスイッチが入ったように平馬は笑い続ける。
「へーま、笑うな!いいんだよ、チビでも。リーゼがいいって言うんだから。
 僕がチビなのは男の証だからいいんだって!お前なんか背ぇばっかり高いだけじゃん。」
笑われてムキになった勝が言った。
「ガキの頃のお前、ギイさんにホント鍛えられたもんな。あれじゃ背も伸びなくなるわ。
 ノリさんが後でお前の体見てあきれてたぜ?
 ま、おかげでみんなこうしていられるんだけどな。」
平馬はニヤリとして勝に親指を立てた。
「へへっ。」
勝は子供のような顔をして照れて笑う。


獣舎の方から人の歩いて来る気配がした。
「へーまぁ、リーゼが帰って来たよ。…あれ、マサル来てたの?
 ん?そっか、さっきリーゼがつけてたあの指輪、マサルがあげたんだ。」
やってきたのは、リーゼがいないため代わりにドラム二世の様子を見ていた涼子だった。
帰ってこないリーゼを心配していた平馬に、彼女の帰宅を伝えに来たのだ。
獣舎に入るなりあわててドラム二世の世話を始めた彼女の指に、
見慣れない可愛いリングが光っているのを目ざとく見つけていた。
涼子は眉毛を釣り上げて勝に言う。
「何よあんたたち、会ってたなら一緒に帰ってくればいいじゃない。二人別々に入ってこないでさ。」
もっともな意見だった。
「いやリョーコ、そういう訳じゃなくて…。テントに近づいたらリーゼに置いてかれた…。」
勝は情けない顔をして肩を落とした。
「は?」
平馬と涼子が声を揃える。
「こんなに遅くなっちゃって、相当ドラムの事が心配だったみたいで。
 獣舎が近づいたら目の色変えて走って行っちゃって…」
勝は恥ずかしそうにそう言った。
「ひーっひっひっ、お前よりドラムが大事かよ!」
「リーゼッ、ひどぉ…!」
平馬と涼子はこらえ切れず笑い転げた。
遠くからリーゼの声がする。
「マサルさーん、どこ行っちゃったんデスかー。ゴメンナサイ、私ドラムが心配で、つい…。」
「ほら、呼んでるよマサル。早く行ってあげなよ。」
涼子がウインクして言う。
「うん、じゃ二人とも後でね。」
勝はリーゼの方へ駆け出した。
「おーい、マサル!今回はいつまでいるんだぁ?」
平馬が勝の背中に呼びかける。
「あしたまでー」
そう答えて勝はリーゼの元に走って行った。


「はぁ?!あいつ本当にリーゼの為だけに帰って来たんだ。」
平馬があきれたように言う。
「意外とやるじゃん、マサル。…ね、ヘーマ。」
笑いながら涼子が言う。
「まぁな。でもあいつ、この手の事には昔からトロくてよ。時間かけすぎだっつーの。」
平馬は仏頂面だ。
「人の事言えるの?ヘーマはさ。」
ちょっと挑むような目で涼子は平馬を見る。
「少なくともマサルよりはちゃんとしてるぜ?」
そう言ってニヤッと笑い、平馬は涼子を抱き寄せる。
「そうかもね。」
にっこり笑いながら涼子は平馬の腕に抱かれている。
二人の見る夜空は満天の星に彩られていた。

2007.7.12

「そばにいて」の続きです。
勝さんてば「今日はずっと一緒にいよう」なんて言って結局サーカスに帰って来ちゃいました(笑)
とは言え結構、夜遅く帰ったようなので、それまで二人が何してたかは内緒です☆
平馬と勝、やっぱりいいコンビですよね。
そんで勝に比べて女の扱いがちゃんと出来る子です(笑)
それぞれに兄の教育が違う模様。血はつながってないけど。

タイトルは斉藤和義の同名シングル「空に星が綺麗」から。これもそんなに新しくない曲です。
詞の内容は男の友情ソングで、この話とはニュアンスが違うけど男同士っていいなって感じの曲。
サウンドの方はまんまイメージ通りです。