砂漠に赤い花
「この辺は内紛が多くてね。小さい子供が銃を抱えた姿は…嫌になるよ。
戦闘の犠牲になる子供も多い。ウチの村にも手足の無い子供は多かった。
あのバケモノはそんな子供のふりをして、俺の村へやって来た。
でもどんな愛らしい子供でも、何を仕込まれているか分からないから、
俺達は他所者には近づかない。
外国の人には非人道的に映るだろうが、それで何人も死んでるんでね。
それにあのバケモノは「タスケテ…。」と言い続けて何日も立っていやがった。
その姿に悪魔だと村中脅えていたんだが、一人が様子を見に近づいた時、
にっこり笑って飛びついた。
そしてそのまま爆発したよ。
気付いたら村の周りが同じ子供のバケモノに囲まれていて
…俺が何で生き残ったかは皆目分からない。」
先ほどの場所から遠く離れたベースキャンプで、ガイドの男は震えながら話をした。
「話してくれてありがとう。…アリさん、ちょっと後ろを向いてくれる?」
勝は荷物から取り出した棒状の機械を、空港で金属探知器を使うかのようにガイドの体に沿わせた。
途中でその機械の一部分が点灯する。
「ゴメンね。」
そう言って勝はガイドの首筋に手刀を加え、彼を気絶させた。
そして身に付けていた通信装置に向かって話しかける。
「フウさん、今の話聞いた?このガイド、発信機を仕込まれてるね。」
〈あぁ、君らがベースキャンプに戻ってからの話は聞いていたよ。…情報が不正確だったようだね。〉
「まったくだよ。今回は一人で何とかなる相手じゃないかも。」
勝はため息をついてフウにぼやいた。
そして手にした先ほどの機械を、ガイドの体の点灯した箇所に当てて操作する。
「これで良し。今は取り出せないけど、機能は停止させたから放っておいてもいいや。」
少し安心した表情をして勝がつぶやいた。
〈マサル、今回はムリをせず早くそこを引き上げた方がいい。〉
フウが勝に脱出を促す。
「そうだね。アリさんもいるし、出直した方がよさそうだ。」
勝もフウに同意し、この場からの脱出を算段する。しかしすぐに勝の顔色が変わった。
「……ちぇっ、しまった。少しぐずぐずし過ぎたみたいだよ、フウさん。」
〈どうしたマサル?〉
「やつら、この周りに集まってきた……。」
まだ姿は見えなかったが、勝はオートマータ達の気配を察知した。
あの少女人形の大群が彼らの周りをぐるりと取り囲んでいるようだった。
「話を聞いている間にオリンピアに銃を装備したんだけど、アリさんを抱えては使えないなぁ。」
〈マサル、とにかくその場を離れる事を考えたまえ。〉
「そうするよ…。じゃフウさん、また後で。」
通信を切り、勝は指ぬきをはめる。
「踊れ、オリンピア!」
勝の手で操られるオリンピアには多数の小型ミサイルと銃器が装備されていた。
彼女はガイドと勝を抱え空中に飛び上がる。
彼らの周りはすでに無数の少女人形が取り囲んでいた。
「何っ!?」
先ほどより数を増やした彼らは全体で一つの生物のように動いた。
アメーバがその体の一部を伸ばすようにオリンピアの方に迫ってくる。
オリンピアもスピードをあげて上空に上るが、後わずか間に合わずガイドの足が少女人形の手につかまれた。
意識の無い彼は人形にひっぱられ、オリンピアの腕から引き離された。
そして彼は人形の群れに落ちる。
「アリさん!!」
ガイドが落ちたあたりの人形が数体、彼に取り付く。
周りの人形達は空間を開け、そこでガイドの体は少女人形とともに爆発した。
「うわあぁぁぁぁ!!!!」
勝は絶叫し、オリンピアに装備したミサイルを発射する。
彼は全弾を撃ち尽くし、オリンピアを操って、追ってきた人形達を全滅させた。
少女人形の残骸の中に勝は立っていた。
「僕の…せいで…アリさんが…。」
呆然として彼はつぶやく。彼の目の前には愛くるしい少女人形の残骸が散らばっている。
四肢からはみ出す部品以外は、まるで人間の子供そのものだった。
勝は自分が子供の死体の海に放り出された錯覚に陥る。
…ぞろり、勝の頭の中で何かが蠢いた。
頭の中によみがえる子供たちの断末魔。
彼の中では今、フェイスレスの記憶が再現されていた。
「マサル」の脳に自身の記憶をダウンロードするために、フェイスレスは装置の実験を続ける。
その被験者には子供から大人まで数多くの人間を使用し、そのほとんどが命を失っていた。
彼らは圧倒的な情報を脳に詰め込まれ、その奔流に自分たちの意識が耐えられず正気を失っていった。
そしてそれは「マサル」という子供のための実験であった。そのため犠牲になった人間も子供が圧倒的に多かった。
勝の脳に子供たちの悲鳴が溢れる
「僕を作るために…たくさんの子供が…殺された!?
うぐ…、げぇ…っ。」
勝はその場に胃の中のものをすべて吐き出した。
〈マサル、どうした?何かあったのか…!?〉
フウが勝に話しかける。
「ガイドのアリさんが死んだ…。」
少女人形の上にガイドの血が、赤い花のように散った場面を思い出す。
「僕のせいだ…。ここにいる人形は全部壊したけど、僕には本体を叩く装備がもう無い。
ごめん、フウさん…。」
淡々と勝はフウに言葉を返す。彼の口調には感情の抑揚が無かった。
〈分かった。とにかく一度こちらに戻りたまえ。…オートマータの巣にはナルミに行ってもらう。
君が人形達を始末してくれた分、ナルミがそちらに行く時間も稼げただろう。〉
「…うん、分かった。一度戻るよ…。」
尋常で無い勝の口調にフウの胸に不安がよぎる。果たして、その予感は的中した。
2007.9.23
フェイスレスは現代科学に触れるようになってから、錬金術をやってた時以上に非人道的な事をしてたんではないかと。
間に世界大戦も挟んでるしね…。酷い事いっぱい出来るよね…。
だもんで、そんな記憶が全部子供の中で甦ってたら…狂って死ぬって。それだけで。
と言う事で「効果的なダウンロード技術」の為に、かなりの数の人体実験してたんじゃないかしら、と。
そんな捏造設定を踏まえた今回のお話。表現は控えめですが、イタイです(汗)。