「うわぁぁぁぁ…。」
うなされて飛び起きた勝は、目の前の影にしがみつく。
それは今まで見ていた悪夢に出てくる男より、ずっと細くタバコの匂いのする男。
「目ぇ覚めやしたかい?坊や。」
「阿紫花さん…?」
病室の中は暗く、今はまだ朝までが遠い時刻。
「この病院、時間外は入れないんじゃ…。」
「やさしい看護婦さんがいやしてね。丁寧にお願いしたら特別にいさせてくれやした。」
そう言って男は含み笑いをする。
「昨日からまた熱がひどくてねぇ。アタシとしてはクライアントの容態が気掛かりでね。まだお代もいただいてやせんし。」
目の細い男はさらに目を細くして、勝の髪をくしゃくしゃと掻き回した。
「ありがとう阿紫花さん。」
勝は男の体にしがみついたまま言う。
「さあて、坊や。熱も下がったようだし、アタシはこれでお暇しやしょうか。…タバコも切れちまったんで。」
「阿紫花さん、…もう少しいてよ。」
勝は小さくつぶやいた。
「それは…ご命令で?」
「そういう訳じゃないけど…。」
「…仕方ありやせんね。坊やが寝つくまでいやしょうか。」
男は軽く上を見上げ頭を掻き、しがみつく勝の肩に手をおいた。
それを聞き勝は安堵の表情を浮かべる。
「早く寝ちまってくだせぇよ。…アタシゃタバコが切れるとつれぇんですから。」
再びベッドに横になった勝の脇にイスを置き、男は腰を落ち着けた。
「うん、…心配してくれてありがとう。」
勝は小さく微笑んだ。
男はため息をつき、それでもこの男にしては優しげな表情をして言った。
「仕事、仕事。さっ、静かにして寝てくだせぃ。」
目の前の小さな男の子が再び静かに寝息をたて始めると、男は小さくつぶやいた。
「アタシもヤキがまわりやしたかねぇ…。」
彼はそのまま外が朝の光で白んでくるまで、小さなクライアントのそばにい続けた。
2007.8.23
ありがちなシチュです(笑)。
少しは勝と阿紫花のからんだSSが書きたいなーと思って書いちゃいました。
特に萌もない感じなんですが。
※日記で自分の書いた物を振り返るのが面倒になってきたのでこっちに移しました(笑)。2009.1.22