ふれて未来を

勝の肩を柔らかい手が優しくゆする。
(温かい…手。お母さんの手…だ…)
彼は未だに夢の中。明るい朝の日差しが差し込む部屋の中、ベッドの上で丸まっている。
「…ちゃま。お坊ちゃま。朝食の支度が出来てますよ。そろそろ起きて下さい。」
聞きなれた、でも久しぶりの声。…声?
勝はすっかり目が覚めた。
「うっわぁぁぁ。し、しろがね!!ちょ、ちょっと。
 ノックも無しにヒトの部屋に入ってこないでよ!」
声の主に気付いた勝はあわてて飛び起き、シーツを体に巻き付ける。
夕べシャワーを浴びてから、移動の疲れに負けてそのまま眠ってしまったのだ。
ここはアメリカにあるフウの屋敷。勝は今、日本を出て世界のサーカスをめぐる旅をしている。
ただ、その旅の間には、生き残りのオートマータを始末してまわっているのだ。
普段はフウの指示で一人で動く事が多いのだが、時々鳴海やしろがねと共同戦線を張る。
今回は米軍部もからみ、今までにない規模の作戦になりそうだった。
作戦会議は2日後。
そのためヨーロッパにいた勝は昨夜フウの屋敷につき、挨拶もそこそこに部屋で休んでいたのだった。
「す、すいません。よく眠っておいでで、ノックをしても気付かれなかったものですから。」
勝の慌てぶりに驚いて、しろがねは目を丸くする。
「分かった、分かったから!服着て食堂に行くから、早く部屋を出てよ〜」
半泣きで勝はしろがねに懇願した。

(男扱いされてないのは知ってるけど…
 今日に限って何であんなカッコで寝てたんだろ。
 それに、しろがね達が来るのは明日だってフウの野郎言ってたよな。
 トホホ…、いい夢見てた筈だったのに…)
真っ裸で寝ているのをしろがねに見られて、朝っぱらからどんよりと落ち込み、
今度はちゃんと服を着て勝は食堂に向かった。
「おぅ、マサル。おはよう。良く眠れたようだな。」
食事を済ませ、コーヒーを飲んでいた鳴海が勝に声をかける。
しかし何だか勝の雰囲気が暗い。
「兄ちゃん、おはよ…。思ったより早くついたんだね…」
「どうしたマサル、元気ないな?」
「どうしたもこうしたも…兄ちゃん、しろがねに言っといてよ〜。
 僕の部屋にいきなり入らないでって。」
勝は鳴海に訴える。
「しろがねが僕を子供扱いしてるのはいいよ。それは慣れてる。
 でも僕だってこうみえても年頃のオトコなんだからさ。
 困る時だってあるんだよ!」
「な、何かあったのか?」
その必死さに鳴海もたじろいだ。
「夕べ疲れてて、シャワー浴びてからそのまま裸で寝ちゃったんだ。
 それを…顔色一つ変えないしろがねに起こされてごらんよ。
 僕だって傷つくよ…」
「気持ちはわかるが…。あいつはそういうトコ鈍感だからなァ。
 そうだマサル、あいつを百歳の婆さんだと思ってみたらどうだ。
 そうすれば…」
「無理だよっ!!
 それにそんな事言ったのバレたら、兄ちゃんしろがねに殺される……あ。」
勝が横を向いた先に目の据わったしろがねが立っていた。
「…ナルミ。あなた今ナンテ言ったの?」
しろがねの後ろに炎がゆらめいている。
「いえ、シロガネサン…オレ何も言ってマセン…」
鳴海の顔は真っ青だ。
「問答無用!れ ざあ ましおう!」
しろがねはあるるかんを繰り出した。


「エレオノール君…犬も食わないケンカもいいが、ほどほどにしてくれたまえ。屋敷は強度に限界があるからね。」
「も、申し訳ありませんっ。」
時過ぎて、しろがねはフウに平謝り。
しかし鳴海があっさりあるるかんに羽交い締めにされたので、テーブル周辺のインテリアが犠牲になっただけで済んだ。

「兄ちゃんさぁ、しろがねの教育間違ってない?」
「教育って。しろがねがそんな事されるようなタマか。」
片づけ終わったテーブルで、男二人が話し合っている。
「まぁ、そうだけど。でもある意味、ああやってしろがねが感情を爆発させるようになったのは兄ちゃんの教育の賜物かもね。」
勝は鳴海をからかって笑う。
「お、今日やっと笑ったな。」
そんな勝を見て鳴海が言った。
「うん。さっきのしろがねを見てたら、あんな事くらいで落ち込むのが莫迦らしくなったよ。…これからは自分で気をつける。」
言葉の最後に勝はひとつ、ため息をついた。
「俺もあいつに、青少年に対してもう少しデリカシーを持てって言っとくわ。」
鳴海も苦笑いだ。
「兄ちゃん、…お母さんってあんな感じなのかな?」
ふと勝がつぶやく。
「あ?まぁ、おせっかいだったり、デリカシーが無かったりはウチの母親もそうだったな。そうだな。お前の母さん、小さい頃に亡くなってたもんな…。 今もお前と一緒にいれば、確かにあんな感じかもしれねぇなぁ。」
鳴海が答えた。
「今朝、久しぶりにお母さんの夢を見たんだ。あったかくていい夢だった。…しろがねが起こしに来てくれたおかげかな。」
そう言って勝は微笑む。
「良かったじゃねぇか。」
鳴海もそう答えて小さく笑った。

「うん、そうだね…。」
自分の中でしろがねの存在が変わってゆく…
そんな「兆し」を勝は感じていた。
大切な、大切な女性。これからその「大切」の意味が、また徐々に変化していくだろうという予感。
それは才賀勝、19歳の夏の日の事だった。

2007.7.22

タイトルはスキマスイッチの「ふれて未来を」より。
おお、こんな最近の曲は初めてだ(笑)
まだ見ぬ将来の彼女に向けて、男の子が送るメッセージ。
未来への明るい希望のある感じがステキな曲なのです。
鳴海としろがねと勝しか出てこないのに、リーゼさんへのメッセージですか?これ(笑)