彼女について知っている二、三の事柄
その日の夕刻、女は仲間の若い女と話していた。
「ベアトリーチェ、今日アンタ時間ある?」
「どうして?コロンビーヌ姉さん。」
「これからやるサーカスのチケットを貰ってね。
行きたかったけどお得意さんと約束があって。」
「モリコーネさんね。そりゃ仕方ないわ。」
「それで…終わった後に花を届けて欲しいのよ。
アンタも知ってるでしょ。あの日本人の男にさ。」
「日本人って…マサルちゃんのこと?サーカスって何それ。」
「芸人らしいわよ。今日でそこにいるのも最後だって言ってたけど。」
「あの子話上手いくせに、自分の事何にも言わないのよ。
みんなでどういう人か噂してたんだけど。…姉さんも客に取ったの?」
「いいえ、公園で話しただけよ。私とはもったいなくて寝られないって。」
「へええ。マサルちゃん、口聞いた女(こ)とはみんな寝ちゃうんじゃないかと思ったけど。
気に入られたものね、コロンビーヌ姉さん。」
「そうかしらね。で、ベアトリーチェ行ってくれるの?」
「モチロン。オフィーリアと行ってくるわ。あの子もマサルちゃんの事、気に入ってたから。
なぁんかマサルちゃんって、捨てられたイヌっころみたいで気になるんだよね。」
「じゃ、頼んだわよ。」
「わかったわ。じゃ、姉さん行ってらっしゃい。」
若い女は軽く手を振って、出て行く女を見送った。
「マサル、楽屋口に女が来てるぞ。お前も隅に置けないなぁ。」
楽屋で衣装を脱いでいた男に団員の一人が声をかける。
「ありがと、ジョバンニさん。何言ってんの、ジョバンニさんに来る花なんか、全部女の子からじゃない。」
男は笑って答え、楽屋口に向かった。
「チャオ!マサルちゃん。これコロンビーヌ姉さんから。」
女の手には豪華な花束があった。
「あれ、ベアトリーチェとオフィーリア。来てくれてたんだ、ありがとう。」
「嬉しいわ。私たちの名前、覚えててくれたのね。
でもヒドイじゃない。私たちにはサーカスの人って教えてくれなかったのに。」
「そうよ、コロンビーヌ姉さんばっかり贔屓して!
でもマサルちゃん、本当はすごいのねぇ。あんな風に人形を使うの初めて見たよぉ。面白かったぁ。」
女達は代わる代わる男に話しかける。
「マリオネットを使うのが一番好きなんだ。」
彼女達が初めて見る顔で男は微笑んだ。
「姉さん、今日は用事があってね。来れなくて残念だって。」
「そっか、コロンビーヌさんに見て欲しかったのにな。」
男は寂しそうに言う。
「えー私たちじゃ不満なのぉ?」
女達が非難の声を上げる。
「そんな事ないよ。二人に見てもらえて嬉しいけど…
コロンビーヌは特別だから。そうだベアトリーチェ、伝言を頼むよ。」
そう言って男はやさしく女を抱き寄せその唇にキスをした。
「…なんだマサルちゃん。こんな優しいキスが出来るんじゃん。」
女はちょっと驚いた顔で言う。
「あ、ずるーい。」
片割れは不満げだ。男はその女の頬にもそっと口づけ言った。
「じゃ、ベアトリーチェ伝言頼んだよ。二人とも今日は来てくれてありがとう!」
女達に笑って手を振り、男は楽屋に帰っていった。
女は仲間から伝言を受け取った。
「そりゃもったいなかったわね。サーカスに行けなかったのは。」
「そおよォ。マサルちゃん、寂しそうだったよ。それに芸人としてもスゴイんだから。あんな人形、私初めてみたもの。」
「本当に残念ね。この街にはもう二度と来ないんだろうし。」
「そうなの?サーカスって色んなトコロを回るんでしょ。もしかしたらマサルちゃんがいるサーカスがこの街に来る事もあるかもよ?」
「ベアトリーチェ、あんたは面白い子ね。」
女は若い仲間に言い、そして笑った。
最後に見た男の笑顔を思い出し、鏡の前で女はクスクス笑う。
きっと今ごろ彼は次のサーカスにいるのだろう。
(男にはそんな時期があるものよ。アンタならちゃんと愛せる女が出来るわ…。)
女は唇に紅を差し、今夜も街に歩き出して行った。
2007.8.15
またこんな誰も喜ばないものを(汗)
勝さんの修行時代part2。どうしてそんな男になっちゃったかも考えてるけど…ネタが暗いんだよなー。そのうち書くと思うけど。
でもこれは明るい感じなのでイイかと思って載せちゃいます。
…こういうのって年齢制限いらないよね?(基準がよくわかんない。)
ちなみに…お金はサーカスのバイト以外に色々やって調達してます。
こんな事に使うお金をフウとかに貰ってません(笑)。
多分暇つぶしに株とか色々やってるんじゃないかと。合法的にそこそこ小銭を持ってると思います(笑)
マリオネットが入っているスーツケースにモバイルPCを仕込んであったりして。
もちろんナップザックにはPDAみたいな小型端末が入ってますとも。
勝のマリオネットも何使ってるのかは決めてあるんだけど、手にする時の話が書けないから進まない…。
でもマリオネットの名前書いたら怒られそうだ(笑)
タイトルはムーンライダーズ、「CAMERA EGAL STYLO」の一曲「彼女について知っている二、三の事柄」より。
ホントはゴダールの映画のタイトルだけど、見てないから(笑) アルバムは名盤だよん