フレルマインド
「ミンシアさん、大丈夫?」
勝が心配そうにミンシアの顔をのぞき込む。二人は公園のベンチに座っていた。
「ゴメンね、マサル君。ちょっとみんなの事、思い出しちゃって。」
それは砂漠に散っていったしろがね達の事、…二人目の母とも慕うルシールの事。
そして、最後に共に戦ったしろがねであるギイの事。
「そのマリオネット、ギイさんのでしょ?どうしてマサル君が。」
「ローエンシュタイン大公国の地下トンネルで見つけたオリンピアを、
フウさんが直してから僕に渡してくれたんです。僕がギイさんの最後の生徒だから。」
勝は少し寂しげに目を伏せて話す。
「最初は僕なんかがオリンピアを使うのがギイさんに申し訳なくて断ったんだけど、
しろがねもナルミ兄ちゃんも、僕にオリンピアが応えてくれるなら使ってやれって。」
「そっか…。確かにさっきの動きなら、ギイさんに引けを取らないわ。」
そう言ってミンシアは微笑んだ。
「そう言えば…オリンピアの顔が前とは違う気がしたんだけど?」
ミンシアが首をひねる。
「もとのオリンピアの顔はギイさんのお母さんのものだったらしくて。
…フウさんが気を利かせて変えてくれたんです。」
そう言って勝は少し赤くなった。そんな彼の様子を見てミンシアがひらめく。
「分かった。リーゼちゃんでしょう?そっかー、今のマサル君はオリンピアの恋人だもんね。
フウさんってば本当気が利いてるわ。嬉しいでしょ、マサル君。」
「…ナルミ兄ちゃんにも同じ事を言われました…。」
勝の顔はさらに赤くなり、彼は耐えられなくて俯いてしまった。
「そんなに恥ずかしがらなくても…。そういえばミンハイ達は元気?
二人でサーカスをしながら世界を回ってるんだって?」
ミンシアは俯いてしまった勝を気づかうように微笑み、鳴海達の事を話題にした。
「はい。僕、時々フウさんの所で会うんです。あの二人は相変わらずですよ。
一緒にいるとこっちが当てられちゃう。」
「ふふ。仲がいいなら良かったわ。ミンハイとエレオノールはまだまだ二人の人生の入口にいるんですもんね。」
「ええ…。」
そう話し合う二人の表情はどこか寂しげだった。
「でもマサル君、フウさんの所にそんなにいつも行ってるの?」
「そうでもないですけど…。でも僕、フウさんのモルモットなんで。」
オートマータの事をミンシアに告げる訳にもいかず、一瞬慌てた顔をした後、ニヤッと笑って勝は言った。
「どういう事?」
ミンシアはきょとんとして言う。
「ミンシアさんも血液のサンプルを定期的に送ってるんでしょう?」
「えぇ、年に一度は。」
「僕の場合色々特殊なんで、血液以外も調べてもらってるんです。
それで年に何度かはフウさんの会社に行く事になってて。」
「ふぅん。」
ミンシアは分かったような分からないような顔をする。
「今日もフウさんの所に行った帰りなんです。今まではそのまま他の国のサーカスを見に行ってたんですけど、
せっかくだから今回はアメリカのサーカスを見ようと思いついて。
実はアメリカのサーカスは初めてなんで本当に楽しみで。」
そう言って勝はニコニコと笑う。
「…マサル君は本当にサーカスが好きなのね。今の顔すっごく嬉しそう。」
ミンシアもそう言って笑った。
「そうだ、マサル君。今日は泊まる所決めてるの?」
「これから探すんですけど、何件かはあたりをつけてます。」
「じゃ、まだ決めてないのね。だったら今日はウチに泊まりなさいよ。ディナーもごちそうするわ。」
「そんな、だ、だめですよ。そんな迷惑かける訳にはいきません!」
「大丈夫だって、客間くらいあるわよ?ちゃんと掃除してあるからきれいだし。」
「で、でも女の人の家に泊まるなんて出来ませんよ。」
勝は狼狽して顔を真っ赤にする。
「マサル君を襲ったりしないから安心しなさいよ。君とやりあったらマンションが壊れちゃうわ。
マサル君だって、まさか私を襲わないでしょ?」
おかしそうに笑いながらミンシアは言った。
「…僕だって一応男なんですけど…。」
情けない顔をして勝はミンシアを見る。
「でも、私が簡単に落ちない女だって知ってるでしょ?」
そう言って中国拳法の型を構えミンシアはニヤリと笑う。
「久しぶりにあの頃の話が出来て嬉しいのよ。マサル君が良ければもう少し付き合って欲しいな…なんてね。」
「じゃ…あの時のナルミ兄ちゃんの事を教えてくれますか?…ミンシアさんが良ければでいいんですけど…。」
「いいわよ。」
ミンシアはやさしく微笑んだ。
「僕はその頃、自分がどんな運命に巻き込まれているのか、何も知らずに過ごしていました。
…いなくなってしまったナルミ兄ちゃんの事を思いながら。兄ちゃんは、後で簡単に話してくれたけど…。
僕は、兄ちゃんが何を思っていたのかが知りたい。」
勝はミンシアを見つめる。
「ミンハイが思っていた事は分からないけど、彼が出会った人たちについては教えてあげられる。
ミンハイに生き方を教えた師父の事。彼の命を自分の身を犠牲にして守った『しろがね達』の事は。」
そう言ってミンシアも勝を見つめた。一呼吸の後、ニヤッと笑って彼女が言う。
「でも、それじゃ一晩じゃ足りないわね。私だってマサル君の話も聞きたいもの。」
「えっ?えっ?」
「L.A.にいる間泊まってきなさいよ。
心配しなくてもウチね、君くらいの年齢の俳優の卵達がよく国から泊まりにくるのよ。
勝手に出入りする子もいるから、マサル君が泊まっていっても噂にもならないって。
…心配なら私が入れないように客間の鍵を貸してあげるわよ?」
「じゃ…、鍵を貸してもらおうかな?」
思案顔で勝が言うとミンシアは破顔した。
「そうと決まればまず荷物を置きに行こう!サーカスも見るだけだったらオリンピアは留守番でいいんでしょ?
その後ディナーに行くならドレスアップもしないとね。何か服、持ってない?」
「舞台衣装しか…。」
「じゃどっかお店も寄ろう!行くよ、マサル君。」
強引に腕をつかまれて、勝はミンシアに引っ張られて行く。
(いいのかなぁ。女優さんの家に転がり込んで。)
勝の心配をよそに、傍目から二人はじゃれあう仲の良い姉弟にしか見えなかった。
2007.9.18
タイトルはハナレグミの「フレルマインド」より。
歌い出しの歌詞がミンシアと勝にぴったりだなと。
本編では全然からむ要素の無い二人ですが、鳴海について語り合わせたら面白いかも…
と思って書き出したら鳴海語りになる前に終わっちゃいました(; ゚×゚;)あれ?
でも多分、お互いに有意義なおはなしが出来た事でしょうね(笑)