月夜

縁側から外を見ると、景色がうっすらと明るい。
顔をあげた先には黄色い真ん丸な月。
「…そっか、今夜は満月なんだ。」
いつもなら降り注ぎそうな程の星が見える黒賀村の夜。
今日は大きな月が星達の明かりを遮っていた。
「落ち着いてお月さん見んの、久しぶりだなァ…。」
平馬は縁側に腰を下ろし、ゆっくりと空を見上げる。
「やっぱり家はいいな…。」
そうつぶやいてクスンと鼻を鳴らした。
仏間のふすまが開いて父親が顔を出す。
「こんな所におったか。
 あんまり静かなんで、またいなくなったかと思ったぞ。」
にこやかに笑い平馬に声を掛けた。
父親はアメリカのフウインダストリーから戻ったばかりの自分を心配している。
その気持ちを気恥ずかしく感じながらも、
自分が本当にこの家の一員なんだと思えて平馬は嬉しかった。
「あ…あんまり月がキレイでさ…。」
「そうか。あぁ、本当だ。今日の月はまるで笑っているようだなぁ。」
父親は平馬の横に立ち、同じように夜空を見上げる。
二人は並んで真ん丸い月を眺めた。
「あのよ、親父。サーカスに行く事、許してくれてありがとうな。」
「子供が真剣に考えて出した答えなら、親は認めるしかないさ。
 家を出るにはまだ少し早い気もするが、
 何かを修業するのに早すぎるという事はない。」
月を見たまま話す平馬に、父親は優しい目を向けた。
「うん。あと…」
言いながら平馬は仏壇に目をやる。
そこには英良の遺骨と形見のコートがあった。
「アニキの事…ありがとう。」
「アイツに墓の中は狭いかもしれんがなァ。
 誤った道を歩いとったかもしれんが…この家の子供だ。
 死んだ後まで許さぬ訳にもいくまい。
 私も親として至らないところがあったのだろうし。」
そう言って父親は寂しげに笑った。
その父親の答えを聞いて、平馬はポケットに入れていた手を出し開く。
手のひらの上には真ん丸な十円玉がひとつ。
「アニキさ、最後にマサルを守って死んだんだ。」
そう言って平馬は手のひらを見つめる。
「それがアニキの最後の仕事だった。
 オレも…そんなんで地獄に行くのが帳消しになるとは思わねぇ、けどさ。
 アニキにそんなつもりは無かったと思うけど、
 一緒にオレたちの事も守ってくれたんだ…。」
そして平馬は真剣な顔で父親を見た。その顔を見て父親の表情が和らぐ。
「平馬、いつの世も子供が可愛くない親はいないんだよ。
 お前も英良も私の大事な子供なんだ。」
柔らかい月の光が親子を照らす。
二人はその月を見上げて、しばらくその場に佇んでいた。

2007.9.26

お父さんの口調を確認しないで書いてるので、後で直すかもしれません(汗)。
(いやもう直さないし。)
つーか仕事しる。
Image tune は山崎まさよし「やわらかい月」です。
※日記で自分の書いた物を振り返るのが面倒になってきたのでこっちに移しました(笑)。2009.1.22