鎮魂
「アメリカに行く前に、寄って欲しい所があるんだけど…。」
「ナルミとエレオノールにも頼まれていてね。エリ様の搭乗機に君も同乗するといい。
元々あたしも行くつもりだったんだ。」
「うん。ありがとう、フウさん。」
ボードヌイ射場から人々はそれぞれの生きる場所に帰る事になった。
ケガをしてまだ普通に生活出来ない者は、それぞれの国にあるフウインダストリーの経営する病院に移送される。
仲町サーカスの面々はケガがひどい事もあり、ひとまずアメリカのフウインダストリー社付属の病院に身を寄せる事になった。
ただ平馬と涼子は、アメリカに着いたらすぐ日本の親元に帰り、リーゼはアメリカにいる母親の様子を見に行く事になっていた。
彼女は仲町達の回復を待って一緒に日本に戻ることにしている。
「リーゼさん、もう泣かないでよ〜。すぐ会えるって。
だいたい日本へは僕と一緒に帰るんじゃないか〜。」
輸送機の前で泣きじゃくるリーゼを勝がなだめる。
「ヒック…。ダッテ…マサルさん、日本に戻っても黒賀村に行っちゃったら
仲町サーカスに帰って来ないんじゃ…グスッ。」
勝は日本に帰ったら、その足で黒賀村に戻る事にしていた。
世話になった阿紫花家の人々や村長に、自分の口から事の顛末を報告しなければならない。
「何言ってるの!黒賀村だって大事だけど、僕の家は仲町サーカスなんだから。
村のみんなに挨拶したら、ちゃんと帰るよ〜。」
いくら言っても泣きやまないリーゼに、勝の方が泣きたい気分になってきた。
そんな二人の横から平馬が声をかける。
「大丈夫だってリーゼ。オレがちゃんと仲町さんとこに連れてくからよ。」
「へーま?」
「兄ちゃん達に頼んできたんだ。仲町サーカスに入れてくれって。」
「えっ?!」
「オヤジには電話で言っといたし。…悪いのかよ。」
目を真ん丸にして自分を見つめる勝に、平馬は口を曲げて言う。
「ううん!嬉しいよ!!でもびっくりした〜。百合さん達も驚いたでしょ。」
そう言って勝は満面の笑みを浮かべた。
「…まだ聞いてねぇよ、喋ってねぇからな。でもオヤジは許してくれたぜ。」
ニヤリと笑って平馬は答える。
「ふっふっふっ…鍛えてあげるわよぉ!私の方が先輩なんだからね〜。」
横から涼子もニヤニヤしながら口を出す。勝より早くこの事を聞いていたようだった。
「いいよリョーコ…。」
平馬は眉間にしわを寄せた。
そうやって話している間にも人々が輸送機に乗り込んでゆく。平馬達の乗る機体も間もなく準備が済みそうだった。
「へーま、黒賀村のみんなによろしくね。」
「おぅ。お前もみんなの面倒ちゃんとみろよ。」
「マサル、おじいちゃんの事よろしくね。」
「みんなの事はまかせといてよ。すぐ僕も一緒に帰るからさ。
へーま、アシ…英良さんを…お父さんとお母さんの所にちゃんと連れてってあげてね。」
阿紫花英良の遺体は荼毘に付され、遺骨は平馬が託されていた。
同じく散ったヴィルマもその遺骨をしろがねが預かっている。
「オレがアニキを置いてく訳ねぇだろ。ちゃんと村へ連れて帰るサ、心配すんな。
お前こそ、よろしく言っといてくれよ…。」
「…うん、わかったよ。じゃ、後でね!みんな。」
そう言って勝は最後にリーゼの方を向いた。
「リーゼさん、本当にちゃんと帰るから心配しないで。帰ったら約束通り動物園に行こうね!」
そう言って朗らかに笑う勝に、リーゼも涙を拭いて笑顔で答えた。
子供たちの横で、一度中国に帰る事にしたミンシアが鳴海たちに別れを告げていた。
「二人とも元気でね。」
ミンシアは笑顔で言う。
「あぁ、姐さんこそ体に気をつけてな。次に会えるのはスクリーンの方が先かな。」
以前の快活な青年に戻った鳴海も明るい笑顔を浮かべている。
「きっとそうね。…さすがにすぐ撮影には入れないだろうけど。
ふふっ。銀幕の私の美しさを見て腰抜かすんじゃないわよ。」
ミンシアがおどけて笑った。
「本当にお元気で…。」
しろがねが声をかける。ミンシアはしろがねに手を差し出した。
「エレオノール…色々とゴメンね。」
「そんな、私の方こそ…。」
しろがねも差し出された手を取った。彼女の心中を思い、声にならない感謝を述べる。
「ミンハイの事、よろしくね。」
しろがねは小さく頷いた。
エリとフウに軽く会釈をして、ミンシアは輸送機の入口に立つ。
「あの場所に戻ったら、私の分もよろしく伝えてね…。」
そう言って彼女は機内へ入って行った。
ボードヌイ射場にエリとフウの搭乗する機体を残し、すべての機体が飛び去った。
「行っちゃった…。」
勝は基地から遠く離れた機影を見つめる。
「私たちもまいりましょう。」
エリが勝に声をかける。
「うん。ゴメンね、エリ様。寄り道させちゃって。」
「いいえ。私もあの場所に行きたかったから構いませんよ。
国に帰ったら、たとえ自分の別荘でも危険な場所に自由に行く事は出来ませんから。」
そう言ってエリは勝に微笑みかけた。
「そうなの?」
勝は不思議そうな顔をする。
「整備して再建した後なら別ですけど、今の状態ではお父様が許して下さらないわ。
…だから今のうちに、私も目に焼き付けておきたいのです。」
「すまなかったね、エリ様。あなたにとって思い出の多い場所だったのだろうに。」
メイド人形に車いすを押されて建物の方からフウが現れた。
「まぁ、フウさん。お気になさらないで下さい。
あの場所があったおかげで世界が救われたのだと思ったら、むしろ誇らしいですわ。
さ、遅くなってはいけません。皆さん、まいりましょう。」
彼らを乗せた輸送機は静かにボードヌイ射場を飛び立った。
2007.9.2
リーゼさんてばシャトルの件がフラッシュバックしておかしくなってる模様ですσ(^_^;)
私の書くこの子は本当に泣き虫だなぁ…