帰還

ステーションを脱出したシャトルが地球へ向かう。
フェイスレスの元に戻ったグリポンのために勝は泣いていた。
その涙の一部はフェイスレスのためにも流される。
そして自分の為にも。

フェイスレスは勝がしろがねを男として愛していると言った。
いまはもういないコロンビーヌも。
しろがねの事を思うと嬉しくなり、そして少し胸が痛い。
「でも、本当にそうなのかな…」
勝は自問自答する。

「僕の中にはおじいちゃんの記憶も、フェイスレスの記憶も…
 金、そしておじいちゃんの血に眠っていた銀の記憶もあるんだ…
 ギイさんの気持ちだって知っている。
 何が僕の本当の気持ちなんだろう…」

フェイスレスとの対峙を終え、地球へ向かうシャトルの中、勝の心は乱れていた。

「僕はしろがねを欲しいと思った?
 ナルミ兄ちゃんからしろがねを奪いたいと思った?
 僕はしろがねを愛しているの?」

勝は自問を繰り返す。

「僕は本当は何を望んでる?
 僕は本当にガマンしたのかな…」

大気圏突入を告げるアラームがシャトル内に響き渡る。
勝は無意識に宇宙服を固定するシートベルトをつかみ、ぎゅっと目をつぶった。


「な、勝。」

血まみれの男の顔が脳裏によみがえる。

「何かあったら心で考えろ… 今はどうすべきか…ってな。」

自分を守る温かい腕の感触。

「そうして…笑うべきだとわかった時は… なくべきじゃないぜ」

傷だらけの体で自分を守り、血を流しながら笑いかけてくれた男の顔。

「ナルミ兄ちゃん…!!
 そうだ、僕はナルミ兄ちゃんになりたかったんだ」

誰に言われたんでも無くて、
僕は自分の意志でナルミ兄ちゃんみたいに強くなろうとしたんだ。
ナルミ兄ちゃんの代わりにしろがねを守りたかった。
フェイスレス、コロンビーヌ…二人とも、僕のこんな気持ちは知らないよね。




大気圏突入のGに耐えながら、勝は目を開いて地球を見た。

「あそこにはみんなが、しろがねとナルミ兄ちゃんがいる!!」

リーゼや平馬、涼子、法安…大好きな黒賀村のみんな、
そして黒髪の大男と銀色の美しい女の顔が目に浮かぶ。

大気圏を出ようとする時に、勝の意識は薄れていった。
地上へはシャトルのオートパイロットが上手く導いてくれるだろう。
勝には、起きていても出来る事は無い。
地球の青い海が目に入った時、薄れる意識の中で勝は思った。


もうひとつ、言いわすれた事があるんだフェイスレス。
僕はナルミ兄ちゃんが大好きなんだ。
知らなかっただろ?
そしてしろがねは、ずっと兄ちゃんを愛してた。
僕はそのしろがねが大好きだったんだ。
僕はそんなしろがねを愛したんだ。
…しろがねが僕を見てくれたら、僕が愛した人じゃなくなっちゃうんだよ。
おかしいよね?フェイスレス…

だから譲るとかそんなんじゃない。
僕が、僕自身のために、二人に幸せになって欲しいんだ。
僕はガマンなんかしてない。
二人の笑顔を見るのが僕の望んだ事なんだから。


勝を乗せたシャトルは海面に向けて降りてゆく。
着陸地を予想して待っていたヘリがただちに救助に向かう。
黒髪の大男がシャトルから勝を連れ出した。

大好きな兄の腕の中で勝は眠っている。
その寝顔はこの海のさざ波のように穏やかだった。
「強くなったな、勝。」
男は眠り続ける勝に優しく声をかけた。

2007.7.7

私、男にとってやせがまんは大切だと思うんですよ?
武士は食わねど高楊枝
きれい事かもしれないけど、勝にはこんな気持ちで思春期を乗り切って欲しいなぁ。
裏をかえせば、勝のしろがねに対する気持ちにとって、
「ナルミ兄ちゃんになりたい」ってのは危険でもあるんだけどσ(^_^;)

私の勝像はオーソン・スコット・カードというSF作家のエンダーシリーズに登場する
天才少年ビーンのイメージがかなり入ってます。…読み返すと違うかもしれないけど(汗)
たくさんの天才少年が登場する中、主人公のエンダーの方がイイ子で勝っぽいのかもしれないけど、
不幸な生い立ちやら雰囲気がビーンっぽい気がしてます。