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この前会社の健康診断を受けた時に思いついたブツ。
いちおう勝×リーゼだけどほんのり百合?
しゃべってるのは涼子です。
******

久しぶりの休日。
私の通う中学校とリーゼの通う高校のテスト休みが揃った上に、サーカスの用事も無い全くのオフ。
めずらしく時間の空いた私たちは
「夏用のサンダルを見に行こうよ!」
と、二人で街に繰り出した。

「こっちのコサージュついたのリーゼに似合いそうだよ。」
お店に並べられた色とりどりのサンダルのひとつを私は指さした。
華奢なラインのオフホワイトのサンダルは清楚なイメージのリーゼにとてもよく似合うと私は思った。
それに、女の子らしく華やかなのに甘すぎないデザインは間違いなくリーゼの好みだ。
私の声を聞いてにこちらを向いたリーゼはサンダルを見て瞳を輝かせた後、眉を寄せて小さくつぶやいた。
「さすが涼子さん、私の好み良く分かってマスネ…。」
「でしょー。」
付き合いの長い私たちはお互いの好みを知り尽くしている。
「…いいナァ、このカタチ。」
リーゼはそのサンダルを手に取り、ひっくり返したり遠ざけて眺めたりした。
間違いなくものすごく気に入っている。
じっと切なそうにサンダルを見つめるリーゼの気持ちが、私には手に取るように分かった。
「…ヒール、気になる?」
私のセリフにリーゼは小さくため息をついた。
「せめて2cmくらいじゃ無いと…」
「それくらいの高さだと、あんま可愛いの無いよ?」
ぶっちゃけリーゼの言うヒールの高さでは、可愛いデザインは限られるのだ。
本当のところ、リーゼは身体能力的には高いヒールを履く事に全然抵抗が無い。
今の舞台衣裳のブーツは10cmはあろうかというしかもピンヒールだ。
それで舞台の上を縦横無尽に駆け回って激しい演技をこなすのだから高いヒールが苦手な訳が無い。
「せめてスニーカーの踵と同じくらいじゃ無いと…」
「また差がついちゃうから?マサルと。」
私がそう言うとリーゼは情けなさそうな顔をして頷いた。
リーゼは母親がドイツ人のせいか、普通の日本人女性より少し背が高めで体格も良かった。ローティーンの頃は本当に儚げで華奢だった体は、ハイティーンになった今、贅肉は欠片も無いものの、筋肉質でグラマラスな物に変化していた。
私からしたら均衡のとれたスタイルはリーゼの努力の賜物で、パフォーマーとしては誇りに思いこそすれ卑下する事は無いと思うのだけど、恋する乙女としては中々に複雑らしい。
彼女の意中の男の子である才賀勝は三つ年下で私と同い年のローティーン。やっと成長期も盛りに入って今日までに一年で10cmは背が伸びた、と息巻いていたけれどリーゼの背に届くには惜しいあと少し、と言った所だ。
リーゼは、一人でいたり大人たちに交じっていれば特に大柄にも見えないし、雰囲気もあって華奢にさえ見えたが、歳の近い少年少女や成長途中で筋肉が上手くつかずにひょろっと見えるマサルのそばに立つと体格の良さが目立ってしまう。
それが現在の彼女にとって拭いがたいコンプレックスとなっているのだった。
ちなみに彼女は未だに絶賛片思い中だ。
「マサルはそう言うの気にしないと思うけどな〜。」
「…私が気になるんです…。」
そう言うリーゼに私は少し苦笑いする。
ああ言ったけど、本当はマサルもすごく気にしているのだ。
小学生の頃は恋愛なんて全然興味が無くて、リーゼの気持ちにもまったく気付く余地が無い鈍さを発揮していたマサルだけど、実は去年当たりからむちゃくちゃリーゼを意識している。
公演の後にリーゼを取り巻くファンや、舞台で共演する男性パフォーマーに嫉妬して不機嫌になったりした。そうやって割と態度に出てるので、サーカスの仲間はみんな彼の気持ちに気が付いている。
平馬や私が指摘するとムキになって否定するが真っ赤な顔がすべてを物語っていて、それが可哀想で私たちは傍観を決め込んでいた。
でも、立場上リーゼと一緒に過ごす時間が多くなるアニマルトレーナーや獣医さんを本当に羨ましそうに見ていた時は、平馬と一緒に思いっきりからかってやったけど。
そしてそれだけ分かりやすいのに、リーゼがまったく気付かないのが仲町サーカスの謎のひとつだ。

そんなこんなでいわゆる両片思い、と言う状態になっているリーゼとマサルなのだけど。
今のところ私だけが知っているマサルの秘密が解消されたら、めでたく両思いになっちゃうんだろうなぁ…と思う。まぁ普通に考えても時間の問題ではあるけれど。
たいした事では無いので「秘密」と言うのも憚られるが、私はある事でうっかりそれを知ってしまった。
私としても彼としても不本意な事ではあるのだけど。
ちなみにマサルにとっては「たいした事」では無いので、私がこんな事を言ってると知れたら殺されるかもしれない。
何かと言うと…こんな事だ。
ある日私は、ちょっと離れた場所から真剣な顔をして保健室に入って行くマサルを見かけた。
最近は自分たちに心閉じる事も無く隠し事も無い筈のマサルだが、もともと自分の弱みを他人に見せるのが苦手なタイプだ。
もし体の具合が悪い事があっても皆に心配をかけたくなくて黙っているかもしれない。
そう思ったらいても立ってもいられず、私はマサルを追って保健室に飛び込んだ。
「マサル!あんたまさか何か病気にでも…!!」
そう声を上げた私の目の前で、身長計に乗ったマサルが顔を真っ赤にしていた。
私の方を見てアワアワと口を動かしている。
「こら生方。保健室ではしずかにしなさい。」
マサルの横に立った保険室のオバサン先生が呆れたような顔で私を見ている。
この中学に通っている仲町サーカスの子供三人は、舞台の訓練やなんやかんやで生傷が絶えないのでしょっちゅう保健室のお世話になっている。だから私も先生とは旧知の仲なのだ。
目の前の光景が不思議だった私は、思わずそれを先生にぶつけた。
「せ、先生…こいつ一体ここで何を?」
「見ての通り身長を測ってるのよ。」
そう言って先生はにっこり笑う。
「なんで…?」
「…さあ?自分の身長を知りたいのは別に悪い事じゃないから聞いて無いけど。」
私の問いに先生は顎に手をあてて首をかしげる。
先生と私が言葉を交わしてる間、マサルは真っ赤な顔でうつむいていた。
「ここ数ヶ月毎月来てたわよね。そう言えばどうしてなの?才賀くん。」
無邪気な顔で問いかける先生にマサルは赤い顔を向けてぱくぱくと口を動かす。
「…自分が1ヶ月でどれくらい身長が伸びてるか平均を取りたくて…。ここなら身長計があるし…。」
「ですってよ。」
かすれるような小さな声で言うマサルの声を受けて先生がニコッと笑う。
笑いながら先生は私の方を見て人さし指を口元にあてて片目を瞑っていた。
(なんで平均を知りたいかが知りたいんだけど!!)
私は心の中で盛大に突っ込んだけど、だいたいの察しはついた。

その帰り、補習のある平馬を学校に残してマサルと私は並んで歩いていた。
「で、アンタ今身長どんだけあんのよ。」
「165cm。」
「へぇ!けっこう大きくなってたのね。そういや平馬より5cmくらい高いかな。」
そう。小学生の時はどんぐりの背比べだった私たち三人は、最初にちょっとだけ私が二人を追い抜いた後、男子二人が成長するとあっさり追い抜かれた。気が付いたら私が一番小さくなっていたのだ。
…ま、今も平馬とは1cmも違わないんだけど。
でもマサルも平馬ももちろんまだ成長は止まってなくて、高校に行ってももっと大きくなるだろう。
私はもう、ほとんど身長が変わらなくなったというのに!
まだ少しは伸びるだろうけど、彼らとは違う。
私は女だから。
二人みたいにはいつまでも背は伸びない。仕方ないけどちょっと悔しかった。
「なぁ、ちょっと聞いていいかな?」
「ふぇ?!な、何?」
少し物思いに浸りながら歩いていたら、マサルが声を掛けてきた。
ぼーっとしていた私は驚いて声がひっくり返る。
「…リーゼさんの今の身長知ってる?」
うっすら顔を赤くして真面目な顔で聞いてきた。
これはさすがに…茶化すのは悪いな。
「半年前だけどね。167cmだよ。」
「そっか…あと少し…。」
そう言って安堵したように息を吐く。
「でも…リーゼまだ背伸びてるかもって言ってたよ?」
私の言葉にマサルの表情が曇った。
決して…ほっとした顔にいじわるを言いたかった訳じゃない。
本当に、最近もリーゼにそう言って嘆かれたのだ。
ちゃんと計った訳じゃないから気にする事ないと慰めたところだった。
「…ごめん。でもぬか喜びさせるのも悪いと思って。」
顔を曇らせたマサルにいい訳のようにそんな事を言った。
「別にいいよ。」
マサルはそう言って困ったような笑顔になる。
その顔を見て、胸に湧いた疑問を隠しておく事がどうしても出来なかった。
「…もしも、本当にもしも、だよ。いつまでもリーゼより背が高くならなかったら…告らないの?」
「こ、告るって…!」
私の質問にマサルは真っ赤になって狼狽える。
いや、今日の流れで背がリーゼに追いついたら告白するつもりなのバレバレでしょ?
「アンタがリーゼを好きなのはバレてるし。どういうつもりなのかも今日で分かったよ。」
静かに言葉を返す私にマサルはどうにか顔を向ける。
「リーゼはともかくアンタのほうは両想いなの分かってるんでしょ?いつまでもリーゼを待たせてるの…可哀想だよ。」
「…うん。だけど…」
マサルの真っ赤な顔は少し治まっていた。
「僕だってきっかけやタイミングが欲しいと言うか…そうじゃなきゃ勇気が出ないと言うか。」
そう言ってマサルは前を向く。
「僕は年下だし頼りないし。サーカスのパフォーマーとしては駆け出しもいいところだし…せめて背くらいは追いついてから告白したいんだ。一応男なんだしそれくらい見栄を張ってもいいだろ?」

男ってホントめんどくさい。

マサルは自分で自分を低く見てるけど、全然そんな事無いし。
見てくれも性格も別に悪く無いから、と言うかいいヤツだから学校でも割と女の子に人気がある。
私からは絶対そんな事教えてあげないけど。
自分を卑下する必要なんてどこにも無いのだ。
なによりリーゼはそのままのマサルが好きなのに。
本当にバカだなぁ。

「ねぇリーゼ、このサンダル、絶対リーゼに似合うと思うよ?」
私はリーゼが名残惜しそうに売り場に戻したサンダルを手に取った。
確かにヒールは普通のスニーカーと比べたら3cmは高いだろう。
リーゼが気にしてるように今これを履いてマサルと並んだら、ちょっとだけリーゼの方が背が高くなると思う。
でも。
「せっかく気に入ったんだからさ、これ買おうよ。」
多分リーゼの悩みは今年の夏で最後だ。
来年はきっと、マサルの背はリーゼより高くなってる筈。
「私はリーゼがマサルの事でおしゃれを我慢するのがちょっと嫌なんだ。気持ちは分かるけど。」
「涼子さん、私、別に我慢してる訳じゃ…。」
リーゼはちょっと困ったような顔で言う。
「えー少なくとも靴はすごく我慢してるじゃん。」
私は笑ってそう言って片目を瞑る。
「それにさ、マサルの背だってもうすぐリーゼを抜かしそうだし。もうそんなに気にしなくていいんじゃない?」
まだリーゼの眉尻が困ったように下がっていた。けど口元は笑ってる。
「…涼子さん、このサンダル、本当に私に似合うと思います?」
「もちろんよ!すっごく似合ってる!!」


だからさ、今年の夏はもうちょっとだけ、気の置けない女友達でいようよ。
きっと、夏が終わる頃にはリーゼの長かった片想いが終わるから。
その頃にはそのサンダルを履いても二人の背はぴったり同じ。
そうしたら祝福するし二人の邪魔もしないよ。
時々は恋人の愚痴も聞いてあげる。

だからさ、あと少しだけ私だけのリーゼでいてね。

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