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ダブルやラプンツェルやタイバニやリアル・スティールなんかの(疑似)親子モノが琴線に触れるここ数年。
つるっと思いついた黒賀村での平馬と勝の超尻切れ文。
記憶だけで書いてるので時間軸や細かい関係はいいかげんなのでヨロシク!
※オチは無い。

夜中にふと目が覚めた。
平馬は薄目を開けて薄暗い部屋の薄汚れた天井に広がったシミをぼんやりと眺めた。
(なんかに似てるな…。)
夢から覚めきらないままの頭で考える。
雨漏りで出来たその模様は平馬に幼い頃を思い出させた。
「…やっべ。」
彼は慌てて布団から上半身を起こす。
そして大急ぎで部屋から飛び出しトイレに向かった。
天井の模様は、両親が健在だった頃に彼が布団に盛大につけたおねしょの跡にそっくりだったのだ。

「ふぅ、間に合った。」
額の汗を拭う仕草をして平馬はやれやれという顔をした。
「もしも間に合わなかったら、アイツに何言われるかわかんねぇ…」
そうつぶやいて彼はつまらなそうに顔をしかめた。
トイレから部屋に戻る廊下の途中、ここ数ケ月一緒に暮らしている阿紫花家の居候の部屋の前を通る。
しかし部屋の中から人のいる気配が伝わってこない。
「トイレじゃ無いよな…?」
さっき用を足した場所には自分以外の人間はいなかった。
ふすまをそっと開けて部屋の中を覗き込むと、人気の無い部屋の中央には布団が敷いてある。
枕元にはパジャマが丁寧に畳んで置かれ、寝崩れた跡も無い布団は部屋の中をより寒々として見せていた。
平馬は誰もいないのを確認すると部屋の中に入ってカーテンが引かれた窓に向かった。
外の冷気を完全に遮るには少々お粗末な布をそっと開いて窓硝子の向こうに目をやる。
「…あそこか。」
母屋から少し離れた小屋の窓から明かりが漏れていた。
この部屋の主は少し建て付けの悪い作業小屋にいるようだった。

「マサル、いるのか?」
そう言いながら平馬は作業小屋の戸を引いた。
簡素な作りの小屋はすきま風が入り放題で、その中は彼の想像以上に寒かった。
小屋の隅で作業に没頭していたらしい勝は、平馬が入ってきた気配に気付き振り向いて驚いた顔をする。
そんな勝に向かって平馬は手に持っていた盆を差し出した。
上には温かい湯気を浮かべたカップが二つ載っていた。
「ありがと。」
勝は片方のカップを受け取り笑顔を返す。
「コーンスープ?嬉しいな。ちょうど少しお腹がすいた所だったんだ。」
そう言って彼はカップに口をつける。
平馬もカップを手に取り盆を作業台の隅に置いた。
「…お前こんな時間に何してんの?」
今は夜半過ぎ。普通の小学生がこんな時間に起きていたら親に大目玉を喰らうだろう。
「人形の整備だよ。」
そう言う勝の目の前には大きな懸糸傀儡が置かれている。
かぼちゃ頭のその人形の腕は、折れてあらぬ方を向いていた。
笑顔を模した表情が俯いて少し痛がっているように見えた。
「これ…この前ギイさんとの特訓の時に折ったのか?」
「この前?」
平馬の言葉に勝が訝しげな顔をする。
「そうこの前の夜。お前が神社でギイさんといるとこ見たんだわ。大変そうだったんで声掛けなかったけど。」
そう言って平馬はニヤリと笑った。
「特訓は一応、普通の人が来ない時間にやってるんだけどな…。でも人形の腕が折れたのはその時じゃ無いよ。」
正二の血を受けて多少無理の利く身体になった勝は、夜中に部屋を抜け出してギイから懸糸傀儡を扱う為の特訓を受けていた。
村長や正二と親しい黒賀村の大人たちは勝の事情を知っているので問題無いが、大部分の村人はそんな事情を知らない。
ギイと勝がしている特訓の様子を知られれば児童虐待と受け取られるだろう。
彼らは注意して人に気付かれないようにしていたので、平馬がその様子を知っている筈が無いのだ。
不審げな顔で自分を見つめる勝に向かって、平馬は小さく口角を上げたまま話し出した。
「何も言う気はねえよ。大切なもん守るんだろ?お前が言いたくないならそれ以上理由も聞かない。」
訓練の事を知っているのは時々部屋からいなくなる勝が気になって後をつけたのだと平馬は言った。
「…姉ちゃん達に心配かけたく無いしな。誰にも言わねえよ。」
「うん。ありがとうヘーマ…。」
自分の後をつけたと言う彼には少し呆れたものの、それが自分の事を心配しての行動だと思うと嬉しくなる。平馬が自分を友達だと認めてくれたみたいで擽ったい気持ちになった。
平馬は飲み終わったカップを盆の上に置くと、勝の懸糸傀儡に近付いた。
「これ、近くで見ると結構大きいんだな。遠くから見ると分からなかったけど。」
勝の事情は聞かないと言いながら人形繰り師に憧れている平馬としては、高性能な懸糸傀儡には興味津々だった。近付いて人形の内部が出ている所を覗き込んでいる。
そんな平馬の様子に勝も笑顔で答えた。
「そうだね。僕が乗っかっても余裕で空を飛べるし。」
「そうだったよな〜。」
勝の言葉に平馬は中を覗き込んだまま以前見たこの人形の空飛ぶ姿を思い出した。
そして素朴に思った事を口にした。
「なぁ、この人形ってギイさんが作ったのか?」
その質問に勝の表情がちょっと強ばった。それを見て平馬は「別に言いたくなきゃいいぞ?」と言う顔をする。
「いや…父さんが作ったんだ。」
「ふうん。お前の父ちゃん腕がいいんだなぁ。」
覗き込むだけでは飽き足らなくなったのか、平馬は人形のあちこちを触って確認しだしていた。
「そうだね。あの人は世界で1番の人形繰り師だから…。」
そう言って勝は寂しそうに笑う。
その顔を見て平馬はそれ以上の質問をするのをやめた。
この時平馬はまだ勝の生い立ちを何も知らない。
その父親が「勝の大切な物」をかけて命がけで戦っている相手だと言うことも。
そんな平馬の気持ちを知ってか知らずか独言のような小さな声で勝が言う。

「僕は黒賀村に来るまで父さんの事をあまり知らなかったんだ。」
顔も覚えてなかった。
でもこの村に来て色んな人から父さんについて話を聞いた。
それで、とても怖い人だったって知ったんだ。
色んな人に憎まれて当然の酷い事をした人なんだって。
僕の事も自分の都合のいいように操ろうとしてた。まるで人形のように。
当然僕は父さんに対して良い感情は持てなかった。

だけど…この前夢を見たんだ。
母さんと小さい頃の僕を抱いた父さん。
何故かその時僕は父さんの中にいた。
腕の中にいる僕の温かさをとても心地よく感じていたんだ。
よく分からないけど幸せだった。
………これはどういう事なんだろう?

つぶやきを終えて勝が俯いていた顔を外に向けた。

「子どもなら自分の父ちゃんの事を好きでいいんじゃねーか?」
勝の方から顔を反らして平馬がぶっきらぼうな口調でそう言った。
「家によって事情は違うけどさ。オレ、どんなにろくでなしでもアニキの事好きだし。」
「阿紫花さんはいい人だよ。僕にとっても。父さんとは違うよ。」
「でもこの家では鼻摘み者なんだぜ、アニキは。」
「だけど…。」
平馬の言葉に振り返った勝は納得いかない顔をする。
「同じだよ。多分。」
そう言って平馬も勝を振り返った。
「人には良い面も悪い面も両方あるからさ、お前は父ちゃんの良い所も見たいと思ってるだけなんだろ。そのこと自体は悪くないと思うぜ。」
平馬はニカッと笑うと拳を作って軽く勝の胸に押し当てた。
「むずかしく考えなくていいだろ。ここで感じてれば」
「そうかな…?」
勝は自信の無さ気な表情をして肯定とも否定ともつかない返事をした。
自分に対してそんな様子を見せる勝はめずらしい。
「そうさ。そのうち考えが変わる事があったらオレに言えよ、聞いてやるから。一人で考え込んでるよりはマシだと思うぞ。」
平馬は面白い物を見るような顔をして、それでも優しげな目をしてニコリと笑った。

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